続・100年予測で学ぶ、中東の歴史2014年11月01日

最近、文庫になったのを見つけて読んで、はまって、何回か読み返している。


 続・100年予測 ジョージ・フリードマン ハヤカワ・ノンフィクション文庫


続、というからには「100年予測」という前編もある。そっちも読んで、読み物としてはそっちの方が楽しかったりするので、別途感想を書きたいのだけど、続、の方は、別の面白さがある。


100年予測の原題は、The Next 100 Years なのに対し、続の原題は、The Next Decade つまり、10年予測だ。


予測、というタイトルなんだけど、実は、近年に何が起こったかの説明が充実している。僕にとって一番目新しく、ありがたかったのは、現在の中東情勢の成り立ちに関する説明。


僕の今までの認識は、せいぜい、もともとあの辺は第二次大戦の頃までイギリスの植民地だったのだけど、ユダヤ人が今のイスラエルあたりの土地を買い占めてパレスチナ人を追い出し、イスラエルという国を数千年ぶりにもう一度作った。周りのアラブ人が怒って中東戦争が何回か起きたけど、イスラエルは強かったので潰されず、今に至る、という程度。


それが、この本によると、まず、今あの辺にある国の多くは、昔からあった国ではなく、国境も人工的に引いたものなら、そこに住む人々も先祖代々その国の国民という意識があるわけでもない。多くの人は数世代前には中東の中の違う場所に住んでいたかもしれない。第二次大戦後にいくつもの国が勝手な取り決めのものとに作られた中で、政治的に自分に近い国へ移住した人もいただろうし、たまたまその時期にそこに住んでいたので、その国の国民になってしまった人も多かったということ。


なんだかタイミングよく以下の記事が某所で話題になっていたのでリンクを貼る。


英国の三枚舌外交と「植民地委任統治型支配」


つまり、第一次大戦までオスマントルコ帝国の州のひとつだった、シリアを、フランスとイギリスが恣意的に南北に分割して占領し、植民地化したという話。北部を取ったのがフランスで、パレスチナを含む南部をイギリスがとった。


で、気がついただろうか。今のシリアはパレスチナの北にある国だが、むかしはパレスチナまで含んでオスマントルコのシリア州だったのだ。なので、今のシリアは、パレスチナも、ヨルダンもレバノンも皆シリアの一部であり、取り戻したいと思っている。


レバノンという国も、フランスが勝手に作った国で、あのあたりは元々キリスト教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒が入り混じって住んでいて、全部アラブ人なのだけど、レバノン近辺は特にキリスト教徒が比較的多かった。そこで、キリスト教徒が多数派になるような形で国を作って、近所のレバノン山から名前を取ってレバノンという国にした。


一方、ヨルダンは、イギリスの政略の結果。アラビア半島では、サウド家とかハシミテ家とかいういくつかの氏族が勢力を競っていて、イギリスはどこに対しても「協力してくれたら、君らにアラビア半島をあげるからね」と甘い約束をしていた。で、結局アラビア半島を得たのはサウド家で、これがサウジアラビアになる。一方、ハシミテ家は「残念賞」として、イラクをもらった。


ところが、ハシミテ家の一部はイラクに行くのを拒んだらしく、アラビア半島の最北部に移住させられた。そこはイギリスの委任統治領トランスヨルダン。「ヨルダン川のあっち側」という意味だ。ヨルダン側の向こう側にあったのでそう呼ばれた。えっ?知ってるって?それが元になって現在のヨルダン王国ができた。正式名称は今でもヨルダン・ハシミテ王国という。


ところで、Wikipedia によると、ハシミテ家の名前はハシムという先祖から来ている。そういう意味ではハシム家という方が適当。アラビア語ではハーシミーヤという。英語ではハシュマイト Hashemite という。英語では語尾に「アイト」をつけて、何々人の意味にすることがある。東京人はトーキョーアイト Tokyoite という(本当)。じゃ「ハシミテ」はどこから来たの?きっと Hashemite をローマ字読みにした日本人がいたに違いないと勝手に勘繰っている。


で、パレスチナは、ヨルダン川のこっち側。ここも、イギリスの統治領となった土地の一部をイギリス人がそう呼んだだけで、もともとそこにパレスチナという国があったり、自分がパレスチナ人であるという意識を強くもった人たちが住んでいたわけではない。パレスチナとは、聖書に出てくる「ペリシテ人」を指す、英語の表現。


ここに、ユダヤ人が土地を買占めに入ってきて、パレスチナ人は追い出されたわけだけど、分かりにくいのは、なぜパレスチナの土地の元の所有者は自分達の土地を大々的に売り払ったのか?


実は、パレスチナに住んでいた人たちは、パレスチナの土地の所有者ではなかった。所有者はよその土地に住んでいて、パレスチナに住んでいたのはそこの土地で農業を営む小作人が多かった。所有者にとってはパレスチナの土地を売っても生活基盤が脅かされることはないので、儲かりさえすれば喜んで手放した。


パレスチナ人は土地を取り戻そうとして、自分がパレスチナ人である、という自覚を持つようになり、パレスチナの独立も目指すようになった。ところが、これは、シリアから見ると、全然歓迎できない。だってシリアの立場からはパレスチナもシリアの一部だから、独立なんてとんでもない。


また、ヨルダンから見ても、もともと全然違うところから来たハシミテ家からみて、パレスチナは異質で、親近感はない。むしろ、ヨルダン川のあっち側がヨルダンならこっち側もヨルダンだ、というのがヨルダンの見解。ヨルダン川のこっち側に権利を主張するパレスチナ人は目障り。なので、ヨルダンは当初ユダヤ人をパレスチナ人との戦いにおける仲間として歓迎していた。


つまり、パレスチナが誰のものか、と言えば、シリアもヨルダンもパレスチナ人も、皆が「当然うちのもの」と考えていた。


1948年、第一次中東戦争の結果、イスラエルが建国される。この時、イスラエル以外のパレスチナ=ヨルダン川西岸(こっち側)はヨルダン領とされた。ガザ地区はエジプト領だった。


約20年後、1967年、第三次中東戦争にイスラエルが勝って、イスラエルはヨルダン川西岸を占領してしまった。この時、イスラエルはここを返還することで、アラブ諸国と和平を結びたい思惑があったらしいのだけど、アラブ側は、これを断固拒否。これによって、パレスチナは恒久的にイスラエルの一部になってしまった。


言い換えると、イスラエルは確かに土地買占めとかさらにもっと強引なやり方で土地を奪ってイスラエルを作ったけど、今のイスラエルほど広い土地を、そこに住むパレスチナ人付きで支配するつもりは元々なかった、ということのようだ。


少し引用する。


「近代イスラエル建国に伴うパレスチナ人の大規模な強制退去を除けば、ヨーロッパ・ユダヤ人の入植は、パレスチナ国家を破壊したわけではない。そもそもそのような国家は、存在しなかったからだ。じっさい、パレスチナの国民的一体感は、一九六七年以降のイスラエルによる占領に対する抵抗から、ようやく生まれたのだった。......しかし過去がどうあれ、いまでは国という自己認識をもったパレスチナ国家が、たしかに存在する。」 (続・100年予測、p. 141)

こういう観点でのこの地域の歴史が、たった7ページほどでさらっとまとめてある。この本が、全体としてどれだけ面白いか、推して知るべし。


ウルフ・ホール (Wolf Hall) がTVドラマに2014年11月16日

ウルフ・ホール
罪人を召し出せ

嬉しい。すごくうれしい。見られるようになるのが待ちきれない。まだ、イギリスでも放送は始まっていないけど、それがDVDになって日本から買えるようになるまで、あとどのくらいかかるだろう。来年の夏頃には入手できるかな。


 Wolf Hall (TV Mini-Seriese) (邦題未定、ウルフ・ホール)


たまたま、imdbで Damian Lewis を調べていて見つけたんだ。 Damian Lewis は、バンド・オブ・ブラザーズのウィンターズ少佐の役をやった人。まぁ主人公といってもいいでしょう。群像劇なので、主要登場人物は何人もいるのだけど。


Damian Lewis の出演作品のリストをぼーっと眺めていたら、あれ、Wolf Hall があるぞ。これはまさか、ひょっとして。


imdb の Wolf Hall のページに行って、登場人物と俳優の一覧を眺める。主役のトマス・クロムウェルの配役が見当たらない。けど、サフォークとかノーフォークはいるなぁ。シーモアとかいるなぁ。あ、スティーブン・ガーディナーがいる。この俳優の顔は見たことあるぞ。 Mark Gatiss って、SHERLOCK のマイクロフトじゃないか!!おおお。


ふむふむ、あ、やっぱりアン・ブーリンがいる。マーク・スミートンもいるぞ。ジョージ・ブーリンもいるし、あ、アン・クロムウェルって役で子役が出てるぞ。ああああ、トマス・モアがいるー!


そのすぐ後ろにいる Damian Lewis は、えーっ、ヘンリー8世なのか。これはまた、人の良さそうなヘンリー8世だなぁ。


おお、ウルジーもいる。ウルジー、ああウルジー。 Jonathan Pryce って何やったひとだっけ。


そして、ついにトマス・クロムウェル発見。 Mark Rylance? なんだか聞き覚えがあるぞ。えーと、これは、あれだ。昔ロンドンに遊びに行ったときに、 Apollo Theatre で見た舞台劇 Jerusalem の主人公をやってた人じゃないか!


Jerusalem の脚本

"And did those feet in ancient time..."


 エルサレム(聖歌)


たまりません。


エヴァの告白2014年11月30日

生きようとすることが罪かって?そうだよ、だけどそんなことはどうでもいいんだよ、惚れちまったんだから。


 エヴァの告白 (原題: The Immigrant)


この映画、日本では「ただ生きようとした、それが罪ですか」というコピーで宣伝していた。それは、つまり、エヴァが生きていくために、身を売ったり、盗みを働いたりするのを、あの状況では仕方がないよね、身寄りのない女がひとり生きていくのは大変だよね、という意味だ。それは、「生きていくのは大変だ」という想いを抱えた観客に共感を呼ぶことを狙っているんだと思う。生きるために犯す罪は、責められるべきものではない、という許しを得たい人はけっこういるに違いない。


それはそれで、この映画の分かりやすい解釈の一つだと思う。男女どちらの観客にも共感する人はいると思う。


でも、男は、ブルーノに共感することもできる。ブルーノはエヴァに惚れてしまった。もうそうなってしまったら、他のことはどうでもいい。エヴァの振る舞いが罪だろうが罪でなかろうが関係ない。ひたすらエヴァを助けたいだけ。


ただ一つ、エミールにエヴァを取られるのだけはがまんできない。昔のいきさつも色々あるらしいけど、もっと本能的に、惚れた女を他の男に取られるのは嫌で、だからエミールのことになるとブルーノは逆上する。芝居小屋から追い出される羽目になろうが関係ない。


ブルーノの頭の中にも、エヴァにのぼせ上がった部分の他に冷静な部分はきっとある。冷静な部分から見ると、エヴァは顔がきれいでブルーノの商売に役立ちそうな、倫理観のちょっとルーズな女に過ぎない。エヴァは飛びぬけて美しいために、そうでない他の女たちには得られない特別扱いをブルーノからもエミールからも受けている。それは他の女たちから見れば、ずるいだろう。


エヴァが自ら進んで動いたのは、ごくわずか。それも他人の好意にすがりにいっただけ。もちろん、他にエヴァに何ができたわけでもない。けれど、「それが罪ですか」と開き直っていいことではないと思う。


けれど、好きになってしまったらそんなことは関係ない。そんなこと考えもしなくなる。エヴァに幸せになってもらいたいだけ。思うのは、そのために自分に何ができるかだけ。


以下、ネタバレを含みます。







ブルーノは結局、最後にはぼろぼろになって、エヴァを助けるための金も工面できなくなる。エヴァがその金を自分でなんとか用意したとき、ブルーノにできたのは、エヴァの妹をエリス島の検疫施設から引き取るコネを紹介することだけ。そのコネと話をつけるための金はエヴァが自分で用意したもの。そしてもう一つ、ブルーノはエヴァを手元においておくのをあきらめて、エヴァを西海岸に送り出した。ブルーノ自身の未来はもう破綻している。殺人犯として捕まるのも間近……


惚れた女を助けるために、滅んでいく男、って構図がぐっとくるんですよ。健さん映画に通じるものがある。


え、エミールには共感しないのかって?共感する男はいるでしょうね。


ただし、イケメンに限る。


あとは、思いつくまま。


うちの奥さんが、見終わってから、「なんでこんなしみったれた映画見せたの」とご立腹。陰鬱な、けだるい気分が続いて、派手なシーンや陽気なシーンがないのがお気にめさなかったらしい。最初から最後まで、画面の色調がセピア色。フィルターかけてあるのかというと、そうでもなさそう。当時の照明の色によるんじゃないかな。


いや、だって、ほら、「映画上級者」を自称する君にぴったりだと思ったから。imdbのスコアも6.6で、さほど高くない。批評家の評価とか、Rotten Tomatoesの評価は高いのだけど。僕がなんで気に入ったかって?飛行機の中でみて、エヴァに惚れたブルーノに感情移入しちゃったから。


マリオン・コティヤール、きれいだとは思っていましたが、この映画で初めて、魅力的だと思いました。今まで見たのが、インセプションとダークナイト・ライジングでの脇役だけだったからかも。うちの奥さんが、「この人いくつ?まだ若いよねぇ」というのでググッたら、1975年生まれ。僕はそんなもんだろうと思ってたけど、うちの奥さんは驚いてた。最近のアラフォーはうかっとすると20台に見える瞬間がある。