The Tudors にもはまってみた2012年07月15日

The Tudors - The Complete Series

宮仕えは辛いよ。


  The Tudors (邦題: チューダーズ The Tudors - ヘンリー8世 背徳の王冠)


ROMEに味をしめて、他の歴史ドラマを探してみたら、こんなのがあった。どれどれ、ほう、ヘンリー8世の話か、丁度ヘンリー7世の話を読んでるところだし、こりゃあいいな。ってことで、いそいそと第4シリーズまで全部入りのDVDボックスを買いました。英国Amazonで。幸い英語字幕つきです。まだシーズン1しか見てません。


ぼちぼち見始めたのだけど、最初のうちはどうしてもROMEと比べてしまう。すると、これがなんだかしょうもない話に見える。


ROMEではシーザーとポンペイウスという二人の大人物とローマ内戦という背景が全体に重みを与えていて、堂々たる話に見える。それに加えて庶民の主人公二人が、全く異なる視点からストーリーに絡む。これがたまらなく面白かった。


The Tudorsの最初の数話を見ると、登場人物が全部小物に見えてしょうがない。ヘンリー8世は遊び仲間とふざけているやんちゃなガキで、年上のお后のキャサリンを放ったらかしてその侍女に手を出すし、遊び仲間の方もバッキンガム公の娘に手を出してるし、バッキンガム公は「俺の方が正統な王位継承権を持ってる!」とか相手構わず言いふらして、当然のように謀反を通報されてしまうし、キャサリン王妃は王の浮気を知りつつも神に祈るのみで、なすすべもなく日々を過し、ついに王から離縁の意志を告げられて、泣き崩れるのみだし、王の側近のトーマス・ウルジーは内政にも外交にも手馴れた感じではあるものの、私腹を肥やし、次のローマ法王になるべく策を弄しているし、外交は虚々実々と言えばそりゃまぁそうだけど、フランスと条約を結んで、まだ10歳にも満たない王女と王子の婚約を発表したかと思うと、フランスは平気で裏切るし、ヘンリー8世もそれならばということで今度は神聖ローマ帝国皇帝と条約を結び、王女も皇子と婚約させなおすし、なのに、なのに、そうこうするうちにまた皇帝に裏切られて、フランスとよりを戻したりする。


で、目立つ話は結局王とアン・ブーリン(どっちかっていうと「アン・ボリーン」って聞こえるけどね)の色恋沙汰で、更に、王の妹(姉?)のマーガレットがポルトガル王に嫁ぐ際、マーガレットをポルトガルまで護衛する役を務めた、王の遊び仲間のチャールズ・ブランソンが、マーガレットと恋仲になって、老齢のポルトガル王がすぐ亡くなったのをいいことに二人で帰国して勝手に結婚してしまう。激怒するヘンリー8世。あきれる私。なんじゃこりや。


そうなんだけど、そうなんだけど、続けて見てると、だんだん印象が変わるのですよ。


単に毎日泣き暮らしているように見えたキャサリン王妃は、だんだん何があってもイギリス王妃としての誇りと威厳を失わない強い女性に変わっていくし、単にほくそ笑む腹黒オヤジに見えたウルジーは、王から疎まれ始めて自分の地位が危うくなると、激しく苦悩し、不安にさいなまれる様子を見せます。悪役なのに、この苦悩する様子を見ると、「ざまぁみろ」という気にはなれず、むしろ共感を覚えます。しかも彼はそれでも自暴自棄にはならずになんとか地位を挽回しようと最後までできる限りの手を打とうとします。結局すべては空しく失われてしまうのですが…


王とアン・ブーリンとのキャッキャウフフは、次第にアンが王に結婚を迫るように変わり、王はアンと結婚できるように、キャサリン王妃との婚姻の無効宣言を求めて、最初はローマ法王に訴え、次にローマ法王からイギリスに派遣された名代が出席する、一種の裁判の中で、国内の司教たちと激しく対立します。なかなか折れない聖職者達に業を煮やした王は、次第にプロテスタンティズムへの関心を深め、カトリックからの離反の決意をかためます。この王の心境の変化は、単に色に目がくらんだ王の気まぐれではなく、既にイギリスにも及んでいたプロテスタント勢力の策動によるものとして描かれます。この、イギリスでの宗教改革のはしりは、ROMEのローマ内戦ほどではないものの、この時代の大きなうねりであったことがだんだん深く感じられてきます。


王のもう一人の側近だったトマス・モアは、最初の数話では、敬虔なカトリックで、家族を大切にし、戦争によらず、外交と条約によってヨーロッパ全体の平和を実現することを王に説く、全くの善人として描かれます。しかし、宗教改革がイギリスに押し寄せると、プロテスタントを摘発し、信仰を改めないものは火刑に処すようになります。


最初のころ、若い王の色恋沙汰の話としか見えなかったドラマが、第一シーズンの終わりが近づくにつれて、歴史のうねりと人々の苦悩を描く、重厚なドラマに変わっていきます。


こんな中で、僕のお気に入りは、 トマス・クロムウェル。 最初、ウルジーの部下として登場し、異様にうやうやしい立ち居振る舞いで、ウルジーにも王にも控え目に、そつなく接し、しかも事務能力は優秀で、ウルジーからの仕事だけでなく、ウルジーが外交でフランスにいる間に、王からの直接の仕事も受けるようになります。やがてウルジーが失脚しても、彼はそれに巻き込まれることなく、ますます王の覚えがめでたくなり、権力の中枢に近づいていきます。


なんかねー。僕って会社ではこんな奴だったんだろうなと思うところがあるのですよ。役員のスタッフをやってた時期がしばらくあって、でも、役員は次々交代していくのです。で、僕は毎年違う役員のサポートをするのだけど、僕の仕事は変わっていない、という……で、僕の態度は誰に対してもうやうやしいわけです。役員同士の間ではそれなりに色々あったんですけどね。


宮仕えを上手く立ち回って出世したトマス・クロムウェルも、Wikipediaによると、最後は、およそ不可抗力なつまらないことが原因で王の不興を買い、処刑されたそうです。そんなものだよなぁ人生。


冬の王ヘンリー7世2012年06月09日

でね、ヘンリー7世にはアーサーって長男が居るわけよ。できのよい。で、彼に後を継がせるようと思ってた。スペインから、キャサリンという王女を嫁に迎えて結婚式も挙げさせた。盛大な結婚式で、ロンドン中でお祝いした。1501年の秋のこと。


ところがアーサーはその翌年の春に突然死んでしまう。ヘンリー7世大ショック。


 Winter King: The Dawn of Tudor England by Thomas Penn
 冬の王 - テューダー朝のイギリスの始まり  トーマス・ペン著


ペーパーバック版表紙

ペーパーバック版裏表紙

何せ、ヘンリー7世には侮れない敵がいる。大陸にいるサフォーク伯エドモンド・ド・ラ・ポール。神聖ローマ皇帝マクシミリアンのバックアップを受けつつ、イギリス再上陸と王権奪取をずっと狙っている。


アーサーの弟のヘンリーはまだ10歳ぐらいでしかなくて、このヘンリーが万一死んでしまうと、その次の王位継承権はサフォークにある。


そもそも、ヘンリー7世自身が王位に就いた経緯は、サフォークのやろうとしてることとあまり違わない。彼も子供の頃はずっと大陸でブルターニュやフランスの庇護の下で過ごし、1485年にイギリス西海岸に上陸。ボズワースの戦いでの奇跡的勝利により、リチャード3世を倒して王になった。


あのう、この頃までのイギリスは、いわゆる薔薇戦争の時代で、白バラの紋章のヨークと赤バラの紋章のランカスターが内戦を続けていた。なので、王位は継承するものでなくて、強奪するもの、という雰囲気が当たり前になってて、ちょっとでも王位に就く権利がある人は、何かの拍子に「俺がなる」と言い出しかねない時代だった。


薔薇戦争は、ヨーク側のエドワード4世が勝って、けりがついたように見えていた。ところが、彼はまだ10代の息子二人を残して亡くなってしまい、そこで横入りして王になったのがリチャード3世。リチャード3世はエドワード4世の弟で側近だったんだけどね。


リチャード3世は兄の息子達二人をロンドン塔に閉じ込めた。その後の二人の消息は誰もしらない。はずだった。


ところが。ヘンリー7世が王になってから、「我こそはエドワード4世の息子」と名乗る青年が現れて、それを担いだ連中が反乱を起こした。しかも何度も。最初は二人のうちの兄と名乗るのが出てきて、この反乱は戦で打ち破られ、捕まえてみれば、この男は反乱軍によって仕立てられただけの真っ赤な偽物だった。で、次は弟だ、っていうのが出てきて、やっとそれを始末したと思ったら、リチャード3世から王位継承者に指名されていた、って触れ込みの少年を担いだ反乱まで起きた。これも偽物だったのだけど。


この辺、もしフィクションだったとしたら繰り返しが酷すぎる。ええかげんにせぇ、といいたい。史実なので仕方がないけど。


話をアーサーが死んじゃった後のヘンリー7世に戻すと、まずはアーサーがいないなら弟のヘンリーだ、と気を取り直し、更にその年の夏、王妃エリザベスがまた身ごもった。これでもう一人王子が生まれれば、随分安心できる。


出産の時期が近づくと、ロンドン塔に贅を尽くした出産のための部屋が用意された。助産婦その他のスタッフも取り揃えて万全の準備が施された。


にも関わらず、出産予定日よりも2週間早く、エリザベスは急に産気付き、ことはうまく運ばず母子ともに亡くなってしまう。1503年2月のこと。


ヘンリー7世とエリザベスは、まったくの政略結婚だったにも関わらず、随分仲がよかったらしい。アーサーに続き、エリザベスを失ったショックで、ヘンリー7世は引きこもり状態になり、さらに体調を崩して死線をさまよう…


が、これで死んでしまうようなタマではなかった。数々の悲運を乗り越えて、人間的に成長したりはちっともせずに、陰険で金にがめつい王としてロンドン、そしてイギリスを重苦しい雰囲気のもとに支配しつづけ、なんとか弟王子ヘンリーに王権を継がせることに成功する。


王子ヘンリーがヘンリー8世になったとき、「新王はイギリスに春をもたらす」と称えられた。だからヘンリー7世は冬の王。


リチャード3世もヘンリー8世もシェークスピアは劇にしているが、ヘンリー7世は飛ばされている。これは、ヘンリー7世の時代にドラマのネタがなかったからではなくて、むしろ暗いネタがありすぎてシャレにならないからだ、とこの本の著者は言ってる。


とりあえず。まだ最初の4割ぐらいしか読んでない。読み終わったら続き書くかも。


[2012年7月25日追記: 続き書きました。]