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冬の王ヘンリー7世2012年06月09日

でね、ヘンリー7世にはアーサーって長男が居るわけよ。できのよい。で、彼に後を継がせるようと思ってた。スペインから、キャサリンという王女を嫁に迎えて結婚式も挙げさせた。盛大な結婚式で、ロンドン中でお祝いした。1501年の秋のこと。


ところがアーサーはその翌年の春に突然死んでしまう。ヘンリー7世大ショック。


 Winter King: The Dawn of Tudor England by Thomas Penn
 冬の王 - テューダー朝のイギリスの始まり  トーマス・ペン著


ペーパーバック版表紙

ペーパーバック版裏表紙

何せ、ヘンリー7世には侮れない敵がいる。大陸にいるサフォーク伯エドモンド・ド・ラ・ポール。神聖ローマ皇帝マクシミリアンのバックアップを受けつつ、イギリス再上陸と王権奪取をずっと狙っている。


アーサーの弟のヘンリーはまだ10歳ぐらいでしかなくて、このヘンリーが万一死んでしまうと、その次の王位継承権はサフォークにある。


そもそも、ヘンリー7世自身が王位に就いた経緯は、サフォークのやろうとしてることとあまり違わない。彼も子供の頃はずっと大陸でブルターニュやフランスの庇護の下で過ごし、1485年にイギリス西海岸に上陸。ボズワースの戦いでの奇跡的勝利により、リチャード3世を倒して王になった。


あのう、この頃までのイギリスは、いわゆる薔薇戦争の時代で、白バラの紋章のヨークと赤バラの紋章のランカスターが内戦を続けていた。なので、王位は継承するものでなくて、強奪するもの、という雰囲気が当たり前になってて、ちょっとでも王位に就く権利がある人は、何かの拍子に「俺がなる」と言い出しかねない時代だった。


薔薇戦争は、ヨーク側のエドワード4世が勝って、けりがついたように見えていた。ところが、彼はまだ10代の息子二人を残して亡くなってしまい、そこで横入りして王になったのがリチャード3世。リチャード3世はエドワード4世の弟で側近だったんだけどね。


リチャード3世は兄の息子達二人をロンドン塔に閉じ込めた。その後の二人の消息は誰もしらない。はずだった。


ところが。ヘンリー7世が王になってから、「我こそはエドワード4世の息子」と名乗る青年が現れて、それを担いだ連中が反乱を起こした。しかも何度も。最初は二人のうちの兄と名乗るのが出てきて、この反乱は戦で打ち破られ、捕まえてみれば、この男は反乱軍によって仕立てられただけの真っ赤な偽物だった。で、次は弟だ、っていうのが出てきて、やっとそれを始末したと思ったら、リチャード3世から王位継承者に指名されていた、って触れ込みの少年を担いだ反乱まで起きた。これも偽物だったのだけど。


この辺、もしフィクションだったとしたら繰り返しが酷すぎる。ええかげんにせぇ、といいたい。史実なので仕方がないけど。


話をアーサーが死んじゃった後のヘンリー7世に戻すと、まずはアーサーがいないなら弟のヘンリーだ、と気を取り直し、更にその年の夏、王妃エリザベスがまた身ごもった。これでもう一人王子が生まれれば、随分安心できる。


出産の時期が近づくと、ロンドン塔に贅を尽くした出産のための部屋が用意された。助産婦その他のスタッフも取り揃えて万全の準備が施された。


にも関わらず、出産予定日よりも2週間早く、エリザベスは急に産気付き、ことはうまく運ばず母子ともに亡くなってしまう。1503年2月のこと。


ヘンリー7世とエリザベスは、まったくの政略結婚だったにも関わらず、随分仲がよかったらしい。アーサーに続き、エリザベスを失ったショックで、ヘンリー7世は引きこもり状態になり、さらに体調を崩して死線をさまよう…


が、これで死んでしまうようなタマではなかった。数々の悲運を乗り越えて、人間的に成長したりはちっともせずに、陰険で金にがめつい王としてロンドン、そしてイギリスを重苦しい雰囲気のもとに支配しつづけ、なんとか弟王子ヘンリーに王権を継がせることに成功する。


王子ヘンリーがヘンリー8世になったとき、「新王はイギリスに春をもたらす」と称えられた。だからヘンリー7世は冬の王。


リチャード3世もヘンリー8世もシェークスピアは劇にしているが、ヘンリー7世は飛ばされている。これは、ヘンリー7世の時代にドラマのネタがなかったからではなくて、むしろ暗いネタがありすぎてシャレにならないからだ、とこの本の著者は言ってる。


とりあえず。まだ最初の4割ぐらいしか読んでない。読み終わったら続き書くかも。


[2012年7月25日追記: 続き書きました。]



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