パイは小さな秘密を運ぶ ― 2015年12月30日
主人公は11歳の少女。とても賢い女の子、という共通点から、ロアルド・ダールのマチルダみたいな話を期待して読み始めた。でも、だいぶ印象は違う。簡単にいうと、マチルダは子供向け、これは大人向け。主人公が子供なだけ。
パイは小さな秘密を運ぶ アラン・ブラッドリー 創元推理文庫
主人公、フレーヴィアは化学(科学じゃなくて、ばけがくの方だ)に天才的に詳しい。普通に優秀な日本の高校生が太刀打ちできるとは思えない。ただ、化学の話はごくまれにしか出てこないし、化学ネタを中心に進む話でもない。
イギリスの小さな村が舞台。そういう村には、なんでも一種類しかない。肉屋といえばあそこ。雑貨屋はここ。郵便局はあっち。大通りは一本だけ。
英語の定冠詞 the は元々、そういうときのためにある。 The meat shop. The grocery. The post. The street. そういえば、同じ村の人ならだれでも、あれのこと、と分かった。
そういう村なので、村人同士は、みんな顔見知り。大人同士なら、お互い何年も前から知っている。でも、主人公は子供なので、昔のことまではわからない。この辺、子供、という設定が効いている。
子供ならではの場面が他にもある。フレーヴィアは人の庭にも平気で入り込んで、窓から家の中をのぞき込んだりする。で、その家の人に見つかったりするが、子供なので、とがめられない。
話の主なネタは切手。珍しい印刷ミスがありながら流通したせいで、希少価値が高い、一枚でひと財産になるような切手。切手道楽が、地元の名士と目されるような人々によくある趣味だ、というのが時代を感じさせる。あ、この物語の舞台は、1950年だ。
途中、スタヴァンゲル、という地名がでてくる。フレーヴィアは最初、スタヴァンゲルがどこの国にあるか知らないのだけど、僕にはなんだが見覚えがあって、どこの国の町か知ってた。ドラゴン・タトゥーの女、か何かで見たような。
近所の本屋で平積みにしてあったので、てっきり新刊だと思って読んだのだけど、2009年に出ていた。シリーズ化されていて、6冊目が今年の12月に出たところらしい。2冊目に手をつけようかどうか、ちょっと迷っている。うちの下の娘は、途中まで読んで、中断したみたいだ。
叛逆航路 ― 2015年12月30日
魅力的なアイデアがいろいろ詰まっている。そのアイデアを生かすと山ほど面白い物語ができそうだが、まだその一部しか語られていない。分厚い本だが、三部作の第一巻だそうだ。
叛逆航路 アン・レッキー 創元SF文庫
ある人物の視点で書かれているので、地の文はその人物が考えていることを表しているが、そこでは、誰かのことを差すのに、その誰かが男か女かに関わりなく、常に「彼女は」と書いてある。この人物の母国語では、文法上、性別の区別をする必要がないからだ。
地の文だけでなく、この人物が母国語で話すときも、「彼女は」しか使わない。よその星を訪れていて、その土地の言葉で話す時には男女の区別をするが、いちいちその区別をしながら喋るのが難しい、と感じている。日本人が英語をしゃべる時、単数と複数の区別をしたり、 a や the を使い分けたりするのが難しい、と言っているのに似ている。
さらに、この人物は、そもそも誰かが男なのか女なのか、自分ではうまく見分けられない、と言っている。物の考え方が、母国語の特徴に強く影響を受ける、という、サピア・ウォーフ仮説に当てはまる話に見える。この人物が所属する文化では、服装や振る舞いにあまり性別が表れないようだ。男女の区別をする星では、地元の人は男女を見分けるのに何も苦労していないが、この人物には難しいらしい。
ただ、この人物が男女をうまく見分けられないのには、もう一つ、全然別の理由があるかもしれない。この人物は人間ではなく、高度に発達した人工知能=AIだ。
もともとは、巨大な戦艦の管制システムだった。戦艦には少数の人間のほかに、4000人の「属躰」が兵士として乗っている。属躰は人間の体を持つが、自分の意識は持たず、戦艦のAIが動かしている。このAIは同時に4000人の兵士として、4000の違う視点を持ち、4000の違う行動を制御していた。
それも今は昔。今、このAIは、戦艦からもほかの兵士の体からも離れて、一人の人間の体に収まっている。
私が戦艦だったころ、あなたは副官で、皇帝はあらゆる場所にいた。わっかるかなー。わっかんねーだろうなー (c) 松鶴家千とせ。
スター・ウォーズ フォースの覚醒 ― 2015年12月30日
下の娘と見に行った。娘は金曜ロードショーで放送していたエピソード4を見ただけだったが、違和感なく楽しめたらしい。
Star Wars: The Force Awakens (邦題:スター・ウォーズ フォースの覚醒)
グランベリーモールの109シネマで、IMAX 3Dでみた。最近の3Dは見やすい。昔と違って、これ見よがしに立体感を強調したシーンはなくて、ひたすら自然な立体感が感じられてよかった。
IMAXは10年以上見てなくて、昔見たときはとても巨大なスクリーン、という印象だったのだけど、今回はそうでもない。でも、画面は確かに美しい。音響もよかった。
映画自体の満足度高い。世間でもエピソード4のリメイク、みたいな評判が立っているが、いい意味でその通り。オールドファンには嬉しい、エピソード4のあのシーンに似せたんだな、とわかるシーンがたくさんある。4だけでなく、以前のシリーズのあちこちに触れている感じ。
素晴らしい、と思ったのが、物語の中で使われているコンピュータのスクリーンに映っている映像が、エピソード4の頃とあまり変わっていないこと。黒い背景に緑色の線だけで絵を描く、ワイヤーフレーム方式の絵がレジスタンスの指令室などで使われていて、エピソード4と同じ世界なんだと分からせてくれる。
以前のシリーズをあまり知らない娘も、全部まんべんなく面白かったらしい。ハン・ソロが急におじいさんになって出てきた落差には驚いたらしいが。4を見てからほぼ間をおかずに7を見ると、そりゃそう思うようなぁ。
BB-8のおもちゃがめっちゃほしい。あの頭を乗せたまま、胴体がコロコロ転がって走り回る動きがしっかり再現されているらしい。欲しいが、27,000円は高いなぁ。
以下、ネタバレあり。なるべく固有名詞は出さずに、見た人なら分かるように書いてある。
見に行くまでは、今回宣伝に露出の少ないあの人がダークサイドに落ちる物語だと思い込んでいた。なので、その辺の背景的ストーリーには意外性があった。
一方、7単独のストーリーとしては、4のリメイクと言われるだけあって、意外性はほとんどない。
主人公がフォースに覚醒するスピードが、ちょっと速すぎやしませんか、という感じはある。
レイもフィンもポーも、新しいキャラクタなのに、驚くほどこの世界になじんでいる。
敵から逃げるため、最新型の宇宙船目指して必死で走るレイ。あっちの船はどうだ、と言われて、あんなオンボロ、と一蹴するが、それを聞くだけで、その船に乗るはめになるのはすぐわかる。でもそれが、「例のあの船」だと見る前にわからなかったのはファンとして不覚!
ええと、The Raidの主人公のIko Uwaisとかはどこに出てたんだっけ。調べてみると、ハンソロを追っかけてきた賞金稼ぎの一人だったらしい。それはもったいない。
が、それを調べていたら、同じページにもっと驚きのニュースが。007の Daniel Craig が、じつは素顔を見せずに、ストームトルーパーの一人として出ていたんだって!しかも、フィンは別格として、今回一番目立っていたストームトルーパーの中にいたそうだ。娘にそう説明したら、一発でどのトルーパーか当てたので、そこまで言えば、映画を見たあたなにもわかりますね?
トレッカのフルーツケーキ ― 2015年12月31日
子供の頃に食べたお菓子が今は手に入らなくなったので、少し探してみたら、なんとか近いものが見つかった。
昔、東京駅八重洲口の地下街に、トレッカという菓子店があった。喫茶店も兼ねていたかもしれない。かもしれない、というのは、自分で行ったことはなかったからだ。父が東京に出張に行くと、いつもお土産に、トレッカのフルーツケーキを買ってきてくれた。
フルーツケーキ、というより、パウンドケーキという方が分かりやすいか。決してふわふわしていない、ずっしり重いパウンドケーキで、レーズン他のドライフルーツが入っていた。独特のスパイスの香りもあった。
一口サイズの直方体に切りそろえてあった。縦4㎝横5㎝奥行1㎝ぐらいか。なにせ40年以上前のことなので不確か。
一切れずつ、内側が銀色の紙で包装されていた。紙の外側は銀の地に紫で模様が描いてあったと思う。
父が買ってきてくれたお土産は、12個入りぐらいの箱だったと思う。どの一切れも重ならないように、横にならべてあった。
今、トレッカという店は東京駅にはない。30年ぐらい前に、大人になってから自分で東京駅に行った時にはまだあったのだけど。
ネットで探しても、それらしきものは見当たらない。ただ、店の名前は出さなくても、「あのお店の味を再現」みたいな形でトレッカのことを言っているらしきパウンドケーキのレシピとかは見つかる。
で、きっと今でも似たものはどこかに売っているだろうと思って探してみた。
当たってみたのは以下の三つ。
- パブロフ
- ル・コフレ・ドゥ・クーフゥ
- 銀座ウエスト
パブロフはひとから教えてもらった。横浜中華街と元町の間にある、パウンドケーキ専門店。持ち帰りもできるが、店で食べるのがメインだと思う。かわいらしい制服のウェイトレスが愛想よく対応してくれる。うちの奥さんと一緒に行った。
店の名前がついた、パブロフセットは、あまいパウンドケーキ3種と、キッシュのような食事系のパウンドケーキ3種に飲み物がついてくる。今回、パウンドケーキについて調べて、甘い方はケーク・シュクレ、食事系はケーク・サレという、と知った。砂糖味のケーキ、塩味のケーキってことだよね?まんまやね。
おいしくて、ボリュームもあるのだけど、トレッカとは違う。わずかに、チョコレートがかかったケーク・シュクレのケーキ部分が重みがあって、トレッカに似ている気がした。
うちの奥さんはケーク・サレが気に入ったそうで、数日後、家でも作ってた。僕は甘い方がいいな。
ル・コフレ・ドゥ・クーフゥは、たまプラーザ東急のデパ地下にあるのを見かけて買ってみた。
ケーキの写真は、店のサイトか、この雑誌の記事を見てほしい。僕が買ったのは、雑誌記事の下の方に、「ノエル用スぺシエル」とあるやつだ。これは季節限定らしくて、店のサイトには載ってない。お店の人は、たしか、ベラベッカ、と言っていたような気がするが、記憶が定かでない。しばらくネットで探してみて、フランス語のWikipediaに、 Beeraweckaの記事を見つけた。アルザスからドイツ、オーストリア、チロル地方あたりの年末に食べるお菓子だそうだ。
これは大当たり。ケーキ部分は、重さと言い、スパイスの香りといい、トレッカそっくりだと思う。一切れずつ個別包装のトレッカとは違って、こちらのケーキは上にドライフルーツやナッツが乗っていてさらにゴージャスだけど、雰囲気は損なっていない。
ただ、この店のパウンドケーキは、ほかに、季節限定でないものが3種類があるが、雑誌記事によると、みんな風味がそれぞれ違うらしい。季節限定を買ったときに、お店の人が、「これはスパイスも入っているんですよ」と強調していたので、他のには入ってないんだろう。ということは、この風味が欲しくても、毎年クリスマスシーズンを待たないと手に入らないのだろう。
銀座ウエストのは、個別包装の感じがトレッカに似ている。二子玉川の高島屋ショッピングセンターのデパ地下で買ってきた。思ったより一切れが小さい。記憶の中のトレッカの半分くらい。でも味は、しっかりトレッカ風の重さがあって、これもいい。もう少しスパイスが聞いていると、さらに似るのだけど、こちらは年中売っているのが吉。
まとめると、一番トレッカに似ているのは、ル・コフレ・ドゥ・クーフゥのベラベッカ、でも年末限定。次に似ているのが銀座ウェストのダークフルーツケーキ。パブロフでは、チョコレート掛けのが似ている。
正月に実家に行くときには、銀座ウエストのを持っていってうちの親と一緒に食べる。なんていうかな。