叛逆航路 ― 2015年12月30日
魅力的なアイデアがいろいろ詰まっている。そのアイデアを生かすと山ほど面白い物語ができそうだが、まだその一部しか語られていない。分厚い本だが、三部作の第一巻だそうだ。
叛逆航路 アン・レッキー 創元SF文庫
ある人物の視点で書かれているので、地の文はその人物が考えていることを表しているが、そこでは、誰かのことを差すのに、その誰かが男か女かに関わりなく、常に「彼女は」と書いてある。この人物の母国語では、文法上、性別の区別をする必要がないからだ。
地の文だけでなく、この人物が母国語で話すときも、「彼女は」しか使わない。よその星を訪れていて、その土地の言葉で話す時には男女の区別をするが、いちいちその区別をしながら喋るのが難しい、と感じている。日本人が英語をしゃべる時、単数と複数の区別をしたり、 a や the を使い分けたりするのが難しい、と言っているのに似ている。
さらに、この人物は、そもそも誰かが男なのか女なのか、自分ではうまく見分けられない、と言っている。物の考え方が、母国語の特徴に強く影響を受ける、という、サピア・ウォーフ仮説に当てはまる話に見える。この人物が所属する文化では、服装や振る舞いにあまり性別が表れないようだ。男女の区別をする星では、地元の人は男女を見分けるのに何も苦労していないが、この人物には難しいらしい。
ただ、この人物が男女をうまく見分けられないのには、もう一つ、全然別の理由があるかもしれない。この人物は人間ではなく、高度に発達した人工知能=AIだ。
もともとは、巨大な戦艦の管制システムだった。戦艦には少数の人間のほかに、4000人の「属躰」が兵士として乗っている。属躰は人間の体を持つが、自分の意識は持たず、戦艦のAIが動かしている。このAIは同時に4000人の兵士として、4000の違う視点を持ち、4000の違う行動を制御していた。
それも今は昔。今、このAIは、戦艦からもほかの兵士の体からも離れて、一人の人間の体に収まっている。
私が戦艦だったころ、あなたは副官で、皇帝はあらゆる場所にいた。わっかるかなー。わっかんねーだろうなー (c) 松鶴家千とせ。
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