太平洋戦争のアメリカ側2014年09月14日

バンド・オブ・ブラザーズを見たら、その勢いでザ・パシフィックを見ないわけにもいかない。 で、レンタルビデオ屋で借りてみている途中で、NHKが丁度、ペリリュー島の戦闘に関する番組をやっていた。


 NHKスペシャル「狂気の戦場 ペリリュー~“忘れられた島”の記録~」


アメリカの公文書館で、何十年かぶりに見つかったペリリュー島の戦場を撮影したビデオを元にした番組で、これを見るとザ・パシフィックが戦場をよく再現しているのが分かる。すくなくとも見た目のレベルでは。


この番組の末尾で、ジョン・ダワーという大学の先生が出てきて語っていて、どこかで聞き覚えのある名前だなと思ったら、家に本があった。


 容赦なき戦争 ジョン・W・ダワー (War without Mercy, John W. Dower)


副題は「太平洋戦争における人種差別」となっており、戦争中、日米双方で敵のことをどのように語っていたかを、たくさんの事例を挙げて語っている。


家にあったのだから、以前読んだはずなんだけど、あまりちゃんと読まなかったらしい。


日本側は「鬼畜米英」って言ってたわけだけど、米国側の日本人に対するイメージは、戦前、戦争初期、戦争の後半で色々変わる。


戦前は、日本人のイメージは、「ちっぽけな黄色いサル」で、31文字からなる詩を作るのに熱中したりする、奇妙な、でもたいしたことはできないやつら、だったらしい。やつらには近代兵器をまともに使いこなすことなど、とてもできない、と軍でも高をくくっていた。ところが、太平洋戦争初期、日本軍は連戦連勝し、一気に支配を太平洋の西半分に広げたので、逆に、やつらは超人的な能力をもっている、という神話が生まれた。ただ、どちらにも共通しているのは、同じ人間としては見ない、ということだった。


そのうち、戦場で間近に相対するようになって、米国の兵士は、日本人が降伏しないこと、初期にはバンザイ突撃、後期には地下トンネルにこもっての徹底抗戦など、米国側には理解しがたい振る舞いをすることを知る。すると、日本人は殺しても殺しても湧いて出てくる虫だ、というイメージが作られていった。そういう虫に対しては、「駆除」という処置しかない。日本にも民間人の銃後の暮らしがある、ということは意識されず、日本人は全滅させる必要がある、と思っていた人も兵士の中には多かったらしい。


これを読んで、初めて理解したのが、スターシップ・トゥルーパーズに出てくる異星の敵「バグ」はまさに戦中の米国人が持っていた日本人に対するイメージそのものであること。虫の姿をし、普段は地面の中のトンネルに隠れていて、出てくるときは殺しても殺してもきりがないほど無限に湧いてきて、一匹一匹が完全に息の根を止められるまで獰猛に戦い続ける。


結構気が滅入る。


そうこうするうちに、ザ・パシフィックも見おわって、やはりドラマとしてみる分には素晴らしく、もう少し知りたいと思って原作の一つを買った。バンド・オブ・ブラザーズと違い、ザ・パシフィックには複数の原作がある。そのうち、ユージーン・スレッジが書いた本がこれ。


 ペリリュー・沖縄戦記 ユージーン・B・スレッジ (With the old breed: at Peleliu and Okinawa, Eugene B. Sledge)


読み始めると、すぐ引き込まれて、あっというまに読み終わった。ザ・パシフィックを再体験しているようでもあり、またまったく違った側面も描かれている。


絶え間なく何日にも渡って降り注ぐ砲弾と銃弾と激しい雨。これが続く間は兵士にできることはあまりなく、生きるか死ぬかは運次第。


もっと悲惨な描写が出てくるけど、それをここで繰り返してもしょうがない。


バンド・オブ・ブラザーズにもあったけど、人気のある指揮官とない指揮官の話はザ・パシフィックにも上記の戦記にも出てくる。スレッジが最大限に賛辞を送っているのは、アンディ・ホールデイン大尉だ。彼は戦闘指揮がうまかったというよ りも、狂いそうになる戦場で、部下の心を支え、守られている気分にさせた人として描かれている。その後を引き継いだスタンリー中尉もまずまずだったようで、戦記の沖縄編に序文を提供している。


一方、沖縄編にでてくる、マックという士官(彼の階級が書かれている箇所はみあたらなかった)はひどかったようだ。


彼は、沖縄戦が始まる前に、スレッジがいる迫撃砲班の班長になり、日本兵に出会ったらこうやっつける、ああやっつける、という話をさんざんして、古参兵を辟易させる。沖縄につくと、本格戦闘が始まる前の比較的平穏な偵察の途中、スレッジたちが散開している間に、道端の動物の骨を撃って、銃声を響かせる。スレッジたちはてっきり日本の狙撃兵が現れたと思って警戒しながら駆けつけるが、真相を知って激怒する。その上、マックは日本兵の死体をここに書けないような形で侮辱するのを常としていた。


スレッジは、こんな男が海兵隊の士官だと思うとやりきれない、と書いている。この男も、実際に砲弾の雨に巻き込まれてからは、大口を叩かなくなったそうだ。


ザ・パシフィックを見ていても、ペリリュー・沖縄戦記を読んでいても、不思議なのは、米軍兵士があれだけ死傷率の高い戦場に、そうと分かっているのに命令を受ければ出撃していくこと。


日本軍なら、命を惜しむことを恥と教えたそうだから、どんな無茶な命令にも逆らわなかったというのはそんなもんだろうと思う。でも米軍は、アメリカ人は、負傷兵はかならず救助して戦線より後方に送り、無茶な突撃はせず、弾薬も食料も補給は絶やさず、ある程度兵士をローテーションして休ませるなど、基本的に戦場といえども兵士の命を無駄にすることは避ける姿勢がある。


にも関わらず、死傷率80%を越える戦場に送り込まれると分かっていても兵士が従うのはどういうわけか。


兵士達がどんな命令にでも従うわけではない。ペリリュー・沖縄戦記には、沖縄戦があらかた終わってから、あちこちで腐敗しつつある日本軍兵士を埋める作業を命じられて、命令拒否した古参兵たちの話がある。まぁ結局は説得されて作業をしたのだが、しかし、戦場に赴くにあたって死傷率が高いことを理由に命令拒否した兵士の話は出てこない。戦地に向かうのが、兵士達皆にとって、どれだけ恐ろしく、気の滅入ることだったかの記述はある。でも、命令拒否の話はない。


別の箇所には、仲間から自分だけが臆病者、卑怯者と思われたくない、という記述がある。また、スレッジたちは志願兵であり、徴集兵たちを見下していたこと、徴集兵たちも自分達が志願兵でないことを必死で隠していたこと、なども書いてある。なにか、そういう、仲間の目線を気にする気持ち、ぶっちゃけていえば格好付け、が一定の役割を果たしていたのだろうとは思う。


ただ、それだけで死傷率80%の戦いに向かえるとは思えない。


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