記事一覧: 映画 お出かけ チューダー朝

Why The West Rules - For Now (その一)2011年11月06日

西洋か東洋か、って話だと思ったら、凄いところにキレイに着地。


過去の幾つもの「セルダン危機」を乗り越えた人類にとって、今世紀が意味するものは?


Why The West Rules - For Now


(邦題未定: なぜ、西洋が優っているのか、とりあえず今の所は)
  (邦題:人類5万年 文明の興亡 - なぜ西洋が世界を支配しているのか)



長期的視野で見る人類史。このテーマでは他にも色々楽しい本が出ているけれど、この本の新機軸は以下のあたりかな。


  1. 西洋と東洋を対比させて語る
  2. 文明の発展度合いを数値化
  3. 15,000年に渡るスコープ

これらの仕掛けで、11章に渡って人類史を語りなおし、全く飽きさせないのですが、その後の最終章で、更に興味深い話を持ち出します。たぶん、こちらが本来語りたかったことで、最初の11章はそれに向かう補助線だったのだと思います。


1. 西洋と東洋を対比させて語る


「ビクトリア女王は、テムズ川の埠頭で、中国高官耆英が到着するのを待っていた。夫アルバート公と共に、額を地面に擦り付けた姿勢で…」


という架空のシーンから語り始めて、この本は、なぜ実際には、これとは逆に、アヘン戦争で英国が中国を追い詰め、現代世界でも西洋が東洋に対して優位に立っているのか、という問いを立てます。


この問いに対する従来の答えには、大別して二つの流派があります。一つは、西洋の優位は長期的に確保されたもの "long-term lock-in" とする考え方で、背景には西洋の生物学的あるいは文化的優位がある、という主張です。もう一つは、西洋の優位は、歴史上の偶発的事件の結果に過ぎない "short-term accident" とするもので、ちょっとした事件の成り行きによっては、東洋で先に産業革命が起き、中国語が世界の共通語になっていた可能性も高い、とする主張です。


この本では、この両方の考えを退けます。過去を検証すると、西洋が常に優っていたわけではなく、したがって long-term lock-in は成り立たない。しかし、西洋が世界をリードしたのは accident ではなく、背景には、生物学的でもない、文化的優位でもない、別の必然的理由があった、それは…


これ、タイトルにもなっているし、この点で読者の興味を引っ張って読ませるようになっていますが、最後まで読むと、この話は本題ではないらしいことが分かります。


2.文明の発展度合いを数値化


西洋と東洋のどちらが優る、という話をするためには、比較の尺度がどうしても必要です。そのために、筆者は以下4つの指標を使って、歴史上の各時点での文明の発展度合いを数値化します。


  • 一人当たりエネルギー消費量
  • 都市人口
  • 情報通信手段
  • 戦争遂行能力

各指標の2000年時点での最高値を250と定め、その合計を取ります。2000年の西洋が1000ってことです。これを、西洋と東洋それぞれに、過去に渡って求め、グラフ化したものが示されます。


昔の、特に紀元前の、こういう数値が正確に求められるのかどうか、怪しまざるを得ないのですが、実は、あまり問題ないのです。


指標値の不明確さはもちろんあって、時代をさかのぼるごとに更に分からなくなるのですが、それは、議論の大勢に影響しないのです。なぜなら、それは…


この数値の振る舞いが、本書の中心主題であり、そして驚きの結論を説得力を持って導きます。


とりわけ重要なのは、以下でしょう。

  • 西洋の優位は6世紀に終り、17世紀まで回復しなかったこと、すなわち東洋の優位が1000年以上続いたこと
  • 43点あたりに文明発展のハードルがあり、西洋ではローマ帝国が、東洋では宋がその壁に当たって越えられず、それぞれ衰退したこと
  • 18世紀、産業革命によって43点の壁を越えてからは、2世紀で1000点に到達していること


とりわけ、3点目は、縦軸を対数にしてすら、近年に至るにつれて更に上向くカーブになっているのに驚きます。


3. 15,000年に渡るスコープ


東西の優劣を語るのに、産業革命期でもなく、ローマ帝国でもなく、エジプト文明でもなく、15千年紀前から始める、というのが豪快です。


当時、人類は氷河期を抜け出したところでした。狩猟採集の生活から、農業の発見に向かうところで、この時、牧畜に適した動物や、栽培に適した植物を見つけやすかったかどうかで、文明が起きる時期が前後します。


もっとも早く農耕が始まったのは、 本書が Hilly flank (河沿いの丘陵地)と呼ぶ、中東北部の領域であり、これが西洋の源流となります。


東洋では、これに遅れること2000年、黄河領域で農耕と文明が始まります。


世紀ではなく、千年紀を単位として語られる物語の中で、文明が繰り返したどる発展と衰退のパターンが示されます。つまり、


国家のあり方には、運用コストの低い分権的運用を行う ( "Low-profile state" 控え目な国家 ) か、対外的に大きな力を振るう集権的運用を行う ( "High-profile state" 派手な国家 ) かの二つの類型がある。


それまで文明がなかった場所や、あるいは文明の荒廃の跡地に生まれる国家は、控え目なことが多い。控え目な国家は、新たに発生する外部の脅威にさらされると、これに対応するために、しばしば派手な国家に変貌する。


文明の発展が新たな問題を引き起こし ( "Paradox of development" 発展の逆説 )、 その解決は往々にして、遅れた周辺部からもたらされ ( "Advantage of backwardness" 後進性の利点 )、 文明の中心はそれまでの周辺に移る


文明の没落時には、以下の5つのいくつか、または全部が同時に文明を襲い ( "Five horsemen of apocalypse" 黙示録の5人の騎手)、数世紀に渡る停滞を引き起こす


  • 気候変動
  • 飢饉
  • 国家破綻
  • 疫病
  • 集団移住

これらのパターンを紀元前1000年くらいまでの歴史で導入した後、それ以降の世紀についても、洋の東西を問わず、これらが繰り返されていく様子を語ります。10章で、ソ連の崩壊と現代中国の台頭にたどり着きます。


そしてその後、いよいよ、予想外の「本論」が始まります。


が、今宵はここまでにいたしとうござります。


コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
私が好きなのは次のうちどれでしょう。
ボードゲーム 
オードトワレ 
ガードレール

コメント:

トラックバック