Why The West Rules - For Now (その二)2011年11月13日

人類が進歩するペースは常に加速する。


Why The West Rules - For Now


(邦題未定: なぜ、西洋が優っているのか、とりあえず今の所は)
 (邦題:人類5万年 文明の興亡 - なぜ西洋が世界を支配しているのか)


Why the West Rules-For Now: The Patterns of History, and What They Reveal About the Future


その一 では、この本が、題名通り、東洋と西洋の発展度合いを過去1万5千年に渡って数値化し、比較してみせた様子を紹介しました。


が、最後まで読むと、この本の本題は東洋と西洋の比較ではないことが分かります。


西洋も東洋も、文明の発達度で43点の壁を越えるのに苦しみ、産業革命によって西洋が先にその壁を越え、2000年には1000点に到達しました。このグラフは2100年にはどうなるのか。


So let us look again at Figure 12.1, particulary at the point where the Eastern and Western lines meet in 2103. The vertical axis shows that by then social development will stand at more than five thousand points.

そこで、図12.1をもう一度見てみましょう。特に、東洋と西洋のグラフが交わる2103年に注目しましょう。縦軸が示す、その時点の社会発展度は5000点を越えています。

43点から1000点までの変化は、古代ローマないし宋の時代から2000年までの変化です。この先、2100年でその4倍以上の変化が起きるというとき、もはや東洋と西洋の違いはどうでもよくなって、人類史に更に根本的な変化が起きることを想定しないわけにはいきません。


何を根拠に5000点などと言っているのか。彼が使っている社会発展度の内訳は、エネルギー消費量、都市人口、情報通信手段、戦争遂行能力です。これらの数値については、近年になるほど詳細な記録が手に入り、それが示しているのは、進歩が常に加速し続けていることです。


話がここに至ると、どうしてもレイ・カーツワイルに触れないわけには行きません。この本でも、ここでカーツワイルと彼の特異点の議論を説明しています。


ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき


カーツワイルは、ムーアの法則に代表される、技術進歩が指数関数的に進む、という確立した観察をベースに、地球上のシステムの総情報処理能力が全人類の総情報処理能力を超える時点を2043年と推測し、これを特異点 (the singularity)と呼びました。


この時、人類は機械に征服されるのではなく、人類はシステムの情報処理能力を徹底的に取り入れ、融合し、今の人類とは違うあり方をするようになります。


Why The West Rules ... では、カーツワイルの説を手放しでは支持していませんが、その理由は、それほどの技術進歩がありえないからではなくて、もう一つ別のシナリオの脅威が同時に増しているからです。 それを、この本ではアシモフの傑作短編を引いて、 Nightfall と呼んでいます。


夜来たる (ハヤカワ文庫 SF 692)


アシモフの短編では、常に太陽が輝く架空の惑星に、2000年に一度の夜が訪れることで、文明が崩壊する様を描きます。現実の21世紀の地球は、これに匹敵する、全世界規模での破局 = Nightfall の可能性を山ほどはらんでいます。


昨今の金融危機は、一国の問題には決してとどまらず、一瞬で世界の他の地域にも波及します。


新型インフルエンザなどの伝染病も、やはり一つの国や地域にとどめることはできず、短時間に全世界に広がります。


冷戦の脅威は去りましたが、核拡散はとどまらず、中東での紛争に核が使われたならば、米国、ロシア、中国がそれに距離を置き続けられる保障もありません。


地球温暖化の影響は全世界におよび、これに一国だけで対処することは不可能です。


この本は、21世紀の100年が、人類史にとって決定的に重要になる、と述べます。もはや東洋か西洋かではなく、 Singularity か Nightfall か、そのどちらを迎えることになるかが、これからの数十年にかかっています。


一国もしくは一地域の政府は、21世紀に起きる危機にうまく対処できません。これに対処するためには、どうしても世界規模の統治機構が必要になります。この本では、EUやグローバルサミットのような取り組みに期待を掛けていますが、おりしも、EUはギリシャ他の加盟国の財政危機にうまく対処しきれず、加盟国離脱の可能性に直面しています。


それでも世界は協調するしかないのです。一地域だけが生き残り、災厄を免れる、というシナリオは残っていないのですから。


最終章の終り近く、この本は題名が釣りだったことを自ら明らかにします。


Hence the deepest irony: answering the book's first question (why the West rules) to a great extent also answers the second (what will happen next), but answering the second robs the first of much of its significance.

結果はこれ以上ないほど皮肉なものだ。この本の最初の疑問(なぜ西洋が優っているのか)に答えることで、この本の二つ目の疑問(これからどうなるのか)にもほとんど答えることができる。しかし、二つ目に答えることで、最初の疑問の意味はほとんど失われてしまう。

この本の翻訳は、きっと出ると思いますが、そうしたら書評を眺めてみましょう。もし、その書評が東洋と西洋の今後の優劣にこだわっていたら、それは殆ど評者がこの本を最後まで読まなかったことを告白しているようなものですから。


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