田中角栄 ― 2012年12月02日
角栄が首相になった頃は、僕はまだ小学生で、何も分からなかった。「よっしゃよっしゃ」とか「まぁこのー」とか口真似が学校で流行っていた。この本で、初めて角栄の業績の全体を眺めることができて嬉しい。ロッキード事件だけ、とかじゃなくてね。
田中角栄 - 戦後日本の悲しき自画像 早野透 中公新書
角栄のすごいところを分かりやすいところだけ挙げてみると。
- 39歳で郵政大臣、40台で自民党幹事長、大臣歴任、54歳で総理大臣。
- 最終学歴高等小学校(今なら中学校)で、官僚をよく使いこなす。
- 30台で議員立法を次々仕掛け、戦後政治の枠組みを形作る。
- 首相として、日中国交正常化を果たす。
一番面白かったのは、総理になる前の議員立法のあたり。ガソリン税を作ってこれを道路整備用の目的税にすることで、大蔵省がコントロールしにくく建設省からみると使い出のある財源を作った。それで建設省の役人から大事にされる。これが自民党の建設族議員の始まり。
同じように、全国の特定郵便局を厚遇して、自民党の強力な支持基盤にするとか、テレビと新聞を系列化する一方、テレビ局の許認可を通して、マスコミへの支配力を強めるとか、郵政省にも強かった。
思想的には、右でも左でもなく田舎の生活を楽にすることが大事、という立場、庶民的な立場。あの時代の田舎の生活の厳しさは、今の生活の苦しさとは全く違うもの。山奥で、冬の間は道路が雪で通れなくなり、そんなときに病気になったら助からないこともあった。そういう時代に、予算を取ってトンネル掘って村への道路を整備する、ってのは、本当に地元住民にとってはありがたいこと。
これまで、政治家が道路作る、公共事業をやる、というと、予算をばら撒いて建築会社が潤う、無駄に立派な建物を作る、というイメージしかなかったけど、原点は本当に住民の役に立つものを作るところにあったんだ、というのを知った。まぁ、角栄の会社がそれで潤ったのも間違いないのだけど。あの頃の日本は、まだそういう公共事業を必要としていたということだと思う。
日中国交正常化も大変なことで、この時は中国にはまだ毛沢東や周恩来が生きていたわけで、彼らと堂々渡りあって話をまとめ、日中双方に友好ムードを作り出し、後の代の中国指導部にまで敬意を払われつづける、というのは、もう今時の政治家と比べるとスケールがなんというか。
こういう角栄の業績は、他にも色々本が出ていると思うけど、この本の著者は、もと朝日新聞の記者で、角栄に張り付くのが仕事だったので、角栄から直接色んな話を聞いている。それが本全体にちりばめられていて、角栄の人柄や人間味を感じさせる本になっているし、独自の資料的価値も生んでいると思う。
メルケルが表紙の本 ― 2012年12月02日
久しぶりの日本で本屋に行くとつい色々買ってしまう。そんなに読めやしないのに。
気の向くままに買っているのだけど、メルケルさんが表紙の本があると、おっ、と思ってつい買ってしまう。春に買ったのは、これだった。
なぜメルケルは「転向」したのか - ドイツ原子力四〇年戦争の真実 熊谷徹 日経BP社
今回買ってきたのは、これ。
ユーロ破綻 そしてドイツだけが残った 竹森俊平 日経プレミアシリーズ
どちらの本も、結果的に「ドイツってちょっと変だよ」という話になっている。あ、どちらも、決してそういう趣旨の本ではないのだけど、結果的に、という話。
最初の本、原子力の話では、ドイツ人にとって健康や安全が、というよりその裏返しの健康への脅威が、いかに重大な関心事か、という話があって、チェルノブイリの頃も大騒ぎしたこと、それ以来ドイツでは原発政策がずっと大きな議論を呼んできていて、だからこそ、日本の事故をきっかけに、当事者の日本が決めかねているのに、ドイツはあっという間に原発全廃を決めてしまった、という説明があります。そういえば、Google News のドイツ語版には政治、国際、科学技術、スポーツ、エンタメと並んで、健康、という項目があるんだよな。日本版にも英語版にもないよね、そんなの。
今回の本は、まだ読み終わってないのだけど、今年10月9日に出版されたばかりの、欧州危機を分かりやすく、でも結構深く解説した本。ドイツの新聞などで、色々個別のイベントは見聞きするのだけど、全体の流れが分かってありがたかったのと、欧州危機へのユーロの影響には二種類ある、というのが理解できてよかった。
二種類というのは、危機が起きる前に、危機を引き起こすように働く「事前的な問題」と、危機が起きた後に、危機の解決を阻むように働く「事後的な問題」のこと。通貨統合によって、為替変動がないので、国をまたがる投資のリスクが実際より小さいような錯覚を引き起こし、その結果、インフレ気味だったイタリア・スペインにドイツの資本が流れ込むようになって、イタリア・スペインの経済危機をドイツが放っておけなくなった、のが事前的な問題。通貨統合のせいで国ごとに違う金融政策が取れず、各国の状況に応じた対応ができないのが事後的な問題。事後的な方はよく聞くけど、事前的な方は初めて聞いた。
で、傍目にはどうみても、経済統合したんだからユーロ圏内で調子のいい国(=ドイツ)から調子の悪い国(イタリア・スペインなど)に恒常的に支援する仕組みがないではすまないのに、「それだけは嫌」と言い続けて事態をこじらせているのがドイツ、しかもドイツがユーロを守りたいのか壊したいのかが良く分からない、というかドイツ自体も分かってない、という話のようです。
この話だけじゃなくて、この本、色々と目新しい、あまりその辺の新聞ではみかけない論点を、とても分かりやすく説明しています。しかも、色んな論点をばらばらに説明しているのではなくて、本全体を通した流れがある中で、その話の展開に必要な論点を、一つずつ理解していける。上質のミステリやスリラーを読むような感じで、同じ人の本をもっと読みたくなる。
ボーン・レガシーと野良スパイ ― 2012年12月02日
主演俳優まで変えて、4匹目のどじょう狙うなんて、ダメすぎるでしょ、と思ってたんだが、これがなんと面白かった。こうなったら50周年目指してがんばれ。
Bourne Legacy (邦題: ボーン・レガシー)
元は、マット・デイモンが主演の、ジェイソン・ボーンシリーズで、1がボーン・アイデンティティー、2がボーン・スプレマシー、3がボーン・アルティメイタム。1を見たのが遥か昔で、2はなんだか印象薄くて、3が、テンポのよさで結構気に入っている、のだけど、要はあまりまじめに見てないので、そもそも話の設定がよく分からん。
すごくいい加減に言うと、CIAが人体実験して超人スパイを作るプログラムを持ってたのだけど、そこから何かの拍子に外れて、野良スパイになってしまったのがジェイソン・ボーン。言うこと聞かなくなった野良スパイが人体実験を暴露するとまずいので、CIAはジェイソンを始末にかかってどたばた、というシリーズだった。
で、最初の人体実験プログラム Treadstone は、野良スパイを生んだりで出来が悪かったので、改良版プログラムとして Blackbriar とか Outcome とか続編が色々試みられて、最新プログラムは Larx というらしい。
Blackbriar までは3で出てきたのだけど、 Outcome と Larx は4=ボーン・レガシーで初めて出てきた話。4は、要するに、 Outcome でまた発生した野良スパイ=アーロン・クロス= Outcome 5 を、CIAが Larx の正規スパイ Larx 3 に始末させようとする話。
この辺の複雑な設定がだんだん明かされていくのが、面白かった理由の一つかも。4を始めるに当たって、それなりにまじめに設定練りました、というあたりが好感持てます。
役者も結構楽しい人がいろいろ出てる。主演のジェレミー・レンナーは、ちょっと前まで、つまりアヴェンジャーズでは「誰?」という感じだったのだけど、これにも出てるし、もうすぐ、「Hansel and Gretel Witch Hunters」にもヘンゼル役で出るらしい。スノーホワイトが甲冑まとって戦う時代なので、このヘンゼルとグレーテルもパンくずを見失ってお菓子の家にたどり着くだけではすまない映画で、結構楽しみだったりする。
ところで、英語だと Hansel で、元のグリム童話ではドイツ語で Hänsel で、これを日本語ではヘンゼルと書くわけですが、 Hänsel の Ä の音は、英語の Hansel の A の音と同じ音、だとドイツ人は思ってる。ドイツのニュースとかでは iPad はアイペット、携帯電話はドイツ語で Handy と書いてヘンディと読んでる。でも、この映画の英語の予告編を聞くと、「ハンゼル」に聞こえるなぁ。
ヒロインはハムナプトラのレイチェル・ワイズ。この人もう結構な歳(今調べたらアラフォー)だったと思ったのだけど、今回とっても若々しい。 CIAの悪いスパイマスターはエドワード・ノートン(ファイト・クラブ)。で、ジェレミーを倒しに来る正規スパイは、ルイ・オザワ・チャンチェン(プレデターズ)。
ルイ・オザワは気の毒に、まともな役名がなくて、 Larx 3 (Larx の第3号)としか呼ばれないのだけど、存在感は抜群です。彼がジェレミー=アーロンを追ってくる様子は、ターミネーター2でシュワルツェネッガーを追ってくるT-1000に似てます。
007のシリーズは、前触れなくボンド役者が入れ替わるわけですが、 Skyfall では話の中で M の交代を説明しました。次にボンド役者が入れ替わる時には、ボーン・レガシーと同じぐらい理屈こねてみたら面白いんじゃないかな。あ、ダイハードがどうやら次で、ブルース・ウィリス=ジョン・マクレーンの息子を出して一緒に飛んだり跳ねたりさせるらしいので、世代交代を狙っているのかも。
あ、そういえば、こないだ「アンノウン」も見ました。リーアム・ニーソン。ネタバレするので、知りたくない人はここでさようなら。
えーと、アンノウンは予告編だけ見て、もう一つ面白くなさそうな印象だったのですが、見てみたら、なんと叙述トリック映画で、ジェイソン・ボーンシリーズ3.5って言ってもいいような話でした。これは宣伝しにくい。リーアム・ニーソンが主人公ってところから既に叙述トリックが始まってる。まったく予期していなかったので、途中で、リーアムが突然華麗なテクニックでカーチェイスするシーンを見て、「この主人公、教授にしちゃ運転がうますぎるよね」などと、うちの奥さんと話していたのでした。そういえば、アンノウンのドイツでの公開タイトルは、Unknown Identityでした。今思うと、タイトルでネタバレって酷すぎる。気がつかなかったけど。
Windows8をVT-xなしの仮想マシンで ― 2012年12月07日
さて、先日むやみにWindows8をインストールして懲りたので、今度はも少し慎重に。仮想マシンで動かせないものか、探ってみた。
軽くググってみると、世の中仮想マシンでWindows8を動かしてみたレポートであふれてます。なのに、なぜ今更もう一つ書くのか。
うちのPCは安物で、プロセッサに仮想化サポート機能がない。VT-xってやつがありません。ググってみた感じでは、軒並み「VT-xを使うよう仮想マシンを設定しましょう」「ホストマシンのBIOS設定でVT-xを有効にするのを忘れずに」って書いてあります。
目標
うちのプロセッサはPentium T4400という、VT-x機能のない、非力なチップ。どうにかならないものか。
発見
さらにググってみると、おお、どうやら32bit版OSならVT-xなしでも動かせるらしい。こないだダウンロードしたWindows8は32bitか、64bitか、どっちだ。
挫折
ふむふむ、64bit OSでダウンロードすると64bit版が、32bit OSでダウンロードすると32bit版が落ちてくるのか。えー、じゃぁだめじゃん。うちのWindows7は64bit版だから、こないだ落としたのは64bit版だ。うちに32bit OSなんてないし。詰んだか…
第2の発見
が、さらにじたばたして、Windows8 Enterprise 評価版というのを発見。90日間しか動かないれど、無償。しかも、これはダウンロード時に32bit版(x86版)か、64bit版(x64版)を選べるようになってる。これだ!
さっそく32bit評価版を取ってきて、Virtualboxにインストールする。VT-xは当然無効にする...
第2の挫折
だめだ。以下のメッセージが真っ黒な画面にでて止まる。
Your PC needs to restart. Please hold down the power button. Error Code: 0x0000005D Parameters: 0x0306170A 0x756E6547 0x49656E69 0x6C65746E
いろんなページを見ても、32bit版OSならVT-xなしで動かせる、とあるんだけど...
光明
あきらめて、VMware Playerを試してみると、ありゃ、動くぞ。
こうやってインストールした32bit評価版で、あらためてWindows8 Proアップグレード版(購入済み)をダウンロード。
ひょっとして、と思ってVirtualboxで動かしてみるが、上と同じメッセージが出る。
VMware Playerで動かしてみると、あっさり動きました。
結論
VT-xのないプロセッサでも、32bit版のWindows8なら、VMware Playerで動かせる。
うーん、少し動きがもっさりしているような気がするが、まぁしばらく使って様子を見てみよう。
フランクフルトで在外投票 ― 2012年12月09日
投票日は来週ですが、フランクフルトの在外投票は今日まで、ってことなので、昨日行ってきました。

フランクフルト総領事館は、この塔の34階にあります。
ハイデルベルクは、ミュンヘンの総領事館の管轄なのですが、あっちよりこっちの方がずっと近いので。

塔の前の謎のオブジェ。

塔の入り口の回転ドアを入ったところにある表示板。
回転ドアすぐの受付に、日本人の女性が一人で座っていらして、私が塔に入るとすぐに、「投票にいらっしゃった方ですか」と声をかけてくれました。「はい」と答えると、エレベーターホールに通じるゲートを開けてくれて、「34階へお進みください」と。ほぼ同時に親子3人家族連れの方も来ていて、同じエレベーターで上に。
34階のエレベーターホールの周りにはたいした廊下もなく、すぐにオフィスへのドアが取り囲む形。そのドアの一つが投票所で、ドアの向こうも奥行き5mぐらいしかなくて、その向こうはもうフランクフルト市街を望む窓。狭い。
ドアのすぐそばに空港にあるようなセキュリティチェックの装置があり、ドイツ人のおっちゃんがニコニコしながらチェックしてました。でも、その装置と投票所は既に同じ狭い部屋の中にあって、万一テロリストが何か持ち込んだとしたら、ここでチェックしても手遅れな気が。テロリストが何か置き土産をしないように、ということかなぁ。


在外投票には、パスポートと、「在外選挙人証」が必要です。在外選挙人証は、あらかじめ手続きして、以前日本に住んでいたときの選挙区の選挙管理委員会から入手しておく必要があります。今回使ったので、裏面にその旨の記載が入りました。この記載を5つ集めると、おもちゃのカンヅメがもらえ...ません。
小選挙区と比例代表選挙のみで、最高裁裁判官の信任投票はありません。
最初に、郵送用封筒をもらい、そこに、自分の選挙区の選挙管理委員会の住所をあて先として書き込みます。そうか、結局フランクフルトから日本に郵送なんだ。だから在外投票は投票日の一週間前なんだ。
小選挙区と比例のそれぞれに、投票用紙と、それを封入するための小さい封筒と大きい封筒の二種類をもらいます。
投票用紙に記入したら、それを小さい封筒に入れ、封をして(シールをはがすと接着面が現れるタイプの封筒)、それを更に大きい封筒に入れ、同様に封をします。大きい封筒に、自分の選挙区、氏名、署名(っても私の場合もう一度氏名を書くだけ)、在外選挙人証の交付番号を書きます。
これを係りの方に渡すと、記入に過不足ないか確認してくれて、さらに立会人の方が署名を大きい封筒それぞれにしてくれます。最後に、係りの方が、大きい封筒二つを、郵送用封筒に入れて、封をして、完了。
全体の雰囲気は、日本で近所の小学校に投票にいくと見かける、受付、立会人の方々がいる風景と同じ。部屋が狭いのと、封筒がたくさんあるのが違うだけ。
昨日の土曜日、朝11時ごろでしたが、混んではいなかったものの、切れ目なく投票にいらっしゃった方が訪れていました。
せっかくフランクフルトに来たので、少し散歩。路面に雪がありますが、この日は割合いい天気。

Alte Oper。ここから、下のHauptwacheまで、ショッピングストリートになっていて、賑やか。 Hugendubel ってデカイ本屋も見つけてハッピー。

Hauptwache横の広場に、クリスマスマーケットの屋台が少し出ていて、ここで Weißer Grühwein とピザで昼ごはん。Weißer ...ってのは何だろうと思ったら、白ワインベースのグリューワインでした。
フランクフルトのグリューワインカップは初めてなので、「持って帰る、保証金要らない」、と保証金交換用のプラスチックのチップ(こんなものもらったのも初めて、他の町ではカップだけ返せば保証金戻ってくる)を返したら、「じゃぁきれいなカップをどうぞ」ってことで、ワインを飲んだカップを返して未使用のカップをもらいました。