リミットレス2011年09月11日

意識が澄み渡る。髪はブロンドに目はブルーに。


   リミットレス Limitless


とてもお勧め。お手軽に全能感が味わえる願望映画。副作用への対処は自己責任で。


エディーは売れない物書き。本の契約を得たものの、1行も書けないまま時間が過ぎていく。恋人からも見捨てられて、もうダメだと思ったとき、とある薬を手に入れて、世界が変わる。


 意識が研ぎ澄まされる。周囲で起きていることが細かいことまで知覚できる。多数の情報を同時に吸収し、つき合わせ、あっと言うまに考えがまとまる。過去にちら見した情報さえ必要に応じて鮮明によみがえる。アイデアは湧き出し、説得力のある言葉となって口から流れ出る。


 「俺の人見知りと怯えはどこかへ行ってしまった。」


本は1日で書きあがり、パーティーでは皆の興味を独占し、金と力を持った人間が次々にコンタクトしてくる。もう本なんか書いてる場合じゃない。


もちろん、この薬には副作用と、裏がある。映画はエディーが高層マンションのベランダの縁に立って足を踏み出そうとするシーンから始まる。


原作を知っていても大丈夫。原作の味は生きているし、先が読めてもつまらなくならない。


ストーリーを楽しむ映画じゃないんだろうな。アクション映画がアクションシーンのハラハラドキドキを楽しむのと同じように、この映画は薬が効いているときの全能感を味わう映画で、プロットは全能感シーンを味わうための入れ物。


その構図は、スパイダーマンやアイアンマンなんかと変わらないのだけど、更に言えば、ハルクみたいに薬で超人になる話もあるのだけど、身体能力じゃなくて頭が良くなる、という話が意外と他にない。


頭の良さ、というのは多くの映画の中では、ドラえもんの道具みたいな超ツールが出てくることの言い訳でしかなくて、主人公ではなくて、サブキャラの役回りなことが多い。「こんなこともあろうかと」の真田さんが典型例。逆に頭のよさは、その発明品の効果でしか示されないことが多い。


この話はそうじゃないところがユニークで嬉しい。薬を飲んだ人々の頭が良くなる様子が、彼らの行動とライフスタイルの変化として描かれる。


うちの奥さんは、薬で頭がよくなる話だよ、といったら、「アルジャーノン?」と言ってた。たしかに。一脈通じるものがある。


原作はこれ。「ブレインドラッグ」。


ブレイン・ドラッグ (文春文庫 ク 14-1)

何年前だろう、たぶん5年以上前に読んだ。そのときもとても気に入って、しばらく読み返したのを覚えてる。


今日ドイツ版iTunesのMovie新作をチェックしてたら、 Ohne Limit って映画のプロットを読んで驚いた。あれが映画になったのか、と。


以下、盛大にネタバレ。







もーいーかい?見てない人は我慢した方がいいよ。






冒頭で、副作用に注意、と書きましたが、実はこの映画は副作用ありません。原作は因果応報な結末なのですが、この映画はハッピーエンドです。私としてはこれは歓迎。エンジェル・ウォーズの結末が耐えられず、一度見て途中のシーンは大いに楽しんだのに、もう一度見る気にはなれないでいたりするので。


外国語がペラペラになる、ってのもグッとくる。たぶん僕にコンプレックスあるんだよな。原作でもイタリア語が急にペラペラになるシーンがあって、印象に残ってる。


映画でも、イタリアンレストランで店員とイタリア語でやり取りして、一緒にいる彼女が目を丸くするシーンがあるのだけど、ラストシーンでは、同じことを更に広東語でやってみせる。で、彼女に向かって


  「何?当然だよね」


まぁ、この時彼女は仕掛けを知ってるからね。驚くことじゃないはずなんだけど、それにしても、これをラストシーンにもって来るというのは、外国語喋る、というのが、アメリカ人にとっても憧れのスキルの一つなんだなぁと思う。 


英語で見たのだけど、最後のロバートデニーロとのやり取りがいまひとつ分からなかった。薬を供給するラボを閉鎖するぞってデニーロが言ったのかな?でエディーが別に困らないからいいもーんと応じたのかな。あのままエディーが大統領路線まっしぐらでは、ちょっと風呂敷広げっぱなしすぎる気がする。


アメリカ的感覚では、薬だろうと何だろうと本当に優秀な人間がトップに上り詰めることは手放しで歓迎ってことなんだろうか。日本だと「ずるい」が先に立つような。


でも、考えてみれば、本当に優秀で、かつ邪悪でない人間であるなら、その人をトップにつけることは重要だと思う。その人がフェアな競争をしたかどうかは僕としてはどうでもいい。


普通は、フェアな競争に勝った実績がなければ、その人が「邪悪でない」かどうか信じられないんだろうけどね。


映像的にはちょっとチープかな。金髪と青い目とか、わかりやすいけれども笑ってしまう。本が急に書けるようになるシーンでは、文字が雪のようにひらひらと舞い降りてくるとかね。


家を片付け始めるシーンは良かったな。薬が効いてくると、部屋を片付けておきたくなるらしく、初めて薬を飲んだとき、散らかり放題の安アパートの中で急に掃除を始めて、あっという間に部屋がきれいになるシーンがある。原作にもあったので、多分、エディーが掃除する様子を早送りで見せるんだろうなと思っていたら、違った。


皿洗いをするエディーの後ろにもう一人棚を片付けるエディーが現れ、また一人、更に一人と同時に6人ぐらいのエディーが部屋掃除してる、という表現になってた。(本当にエディーが増えてるわけじゃなくて、猛スピードで掃除している、という表現ね)。


かつて、バイオニックジェミーでは、ジェミーが床に散らばった書類を高速に拾って片付けるシーンがあって、小学生の僕ですら笑ったのだけど、それをやらなかったので1点差し上げます。


ドラえもん(今回ドラえもん多いな)で、宿題を片付けるために、未来の自分を、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後から同時に連れてくる、という話があった。あれを思い出す人、多いんじゃないかな。


そういう、小ネタの多い映像表現の中で、一番印象的なのは、ニューヨークの街中を視点が無限に進んでいくシーン。「リミットレス」の象徴。これは癖になる。インセプションの持ち上がるパリの街ほどのインパクトはないけれど、誰かこのシーンだけ抜き出してくれたらループ再生で付けっぱなしにしておきたい。


もう一つ楽しいのは、主人公以外にも薬のむ人がいっぱいいること。特にいいのは、闇金業者。原作にも出て来るのだけど、薬飲んでファッションも話し方も変わり、頭が良くなってどう感じたかを結構滔々と語ってくれます。逆にエディーの元妻の描写は気の毒だったなぁ…


エディーと薬、と言えば。


   「エディー、エディーだろ。」


うむ。今からもういっぺん見よっと。


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